近年、日本の伝統木造彫刻の手法の一つである木彫に彩色を施す作家の活躍が多く見られますが、下山直紀もその中の一人と言えます。
しかし、そのこととは別に下山直紀の大きな特徴は、様々な生物の姿を借りて他の生物を表出させたり、合成する手法によってあらたな造形体を創造することです。
彼は年季の入った白のランドクルーザーに乗り、そこに愛犬を乗せ、海や川や山湖に釣りを楽しみ行くのが趣味らしいのですが、近年そういった場所の風景の変化の速さに驚くそうです。世界的に深刻な環境問題もさることながら、身近な自然も失われ、海山には沢山のものが捨てられ、破壊され、つい最近まであった森がほんのわずかな間になくなってしまったりもする。「そこで暮らしていたはずの動植物はいったいどこにいったのか・・・」と。
私たちの歴史上には洋の東西を問わず、擬人化された動物や植物が神話やおとぎ話、または絵画上などでも多く表現されていますし、近年のアニメーションの世界では日常化しているようにも思われますが、現実として、擬装や擬態化した昆虫や植物、動物などが世界各地に生息します。それは、何らかの危険から自らの命を守る為であり、進化を続ける過程でのDNA存続手段の一回答なのかもしれません。
下山の作品は、動物が植物に擬態したり、または植物が動物に擬態する、一見すると奇妙な作風なのですが、人間の基準で考える悪化し続ける今日の環境の中で、こういった擬態化し進化する動植物の存在が 「もしも ありえたら・・・」 という仮想とともに、生物が延命し続けるとしたら、この先 「こうした動植物の擬態化もありえるのかもしれない」 と思わされるのです。
単に、彩色木造彫刻を制作する若手作家ということだけではなく、こうした今日的な、または今日となっては若干言い古された感はありますが、環境と生命というテーマを取り上げながらも、悲壮感をそこに取り上げることなく、未来を見つめつつあらたな造形体の方向を示す下山直紀という作家の試みをご覧いただきたいと思います。
画廊翠巒主 梅津宏規 |