以前より彫刻家・加茂幸子は、グループ展の一作家として画廊翠巒にて度々ご紹介させていただいてきましたが、この度新作を中心とした個展を開催させていただくこととなりました。
加茂幸子はテラコッタという素焼き陶器で、視覚的に柔らかな質感をもつその素材上に着彩し磨き上げることで、多くの彫刻作品とは異なる絵画的な制作手段によって以前より、私小説的な、情緒的で、郷愁を秘めた、それでいてとても造形的な独特の世界を確立してきました。
ある意味、叙情性や文学性を排除してきた、20世紀以降の美術の方向性とは異なる方向性を歩んできたこととなります。
個人の感情や価値観を排除して、より純粋なる芸術を追求してきた現代でありながら、今日の殺伐とした現代社会の中では、失いかけた乾いた感情や傷ついた私小説的な現代人に、今日の美術とは対極的な加茂幸子の作品は、理屈を無意味にするかのように「心に降る恵の雨」のような安堵感と共に、不思議な魅力を秘めた作品としてその存在の意味を示してくれます。 本展では、特に著名な文学作品を題材とし制作された作品を中心に約15点、ご高覧頂きます。
2005年4月吉日 画廊翠巒主 梅津宏規
|